外伝 アツマ・ヤコゴリ編
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![]() | ふっ、ごきげんよう、皆の衆。 | |
![]() | 私の名は、アツマ。神々の中でもっとも美しく、そして気高き狐神の一柱。 | |
![]() | 見よ、この極上の反物のごとき艶やかな白毛を。匠の芸術のごとき均整のとれたこの美顔を。 | |
アツマは芝居がかった仕草で、自身の美点を褒め称え、自己陶酔に浸る。 | ||
![]() | ああ、どれをとっても美しいな。この私の魅力に一体どれだけの女性が私の虜になったことか! | |
しかし、そこに……。 | ||
でもそれって、変態狐さんの不埒な妖術のおかげじゃないんですか? | ![]() | |
![]() | うぐっ! | |
ミコトの何気ない一言で水を差されたアツマは、大きくのけぞり、彼女をキッと睨んだ。 | ||
![]() | そ、そんなことはない! 私の美しさは本物だ! というか、変態と呼ぶでない! | |
どうだろうな、口ではなんとでも言えるしな。 | ![]() | |
ミコトと並んでアツマを指摘するスオウ。 | ||
スオウとミコトが、疑いの眼差しでアツマを見つめる。 | ||
![]() | ぐぬぬぬ……! 貴様ら、私の美を愚弄するか! | |
するとアツマは、ファサァと尻尾をたなびかせ、洒落たポーズをとって彼らに宣言した。 | ||
![]() | いいだろう! ならば術を使わずして、女性たちの心を一瞬のうちに奪ってみせようじゃないか! | |
アツマは不敵な笑いを浮かべながら、彼らに背を向ける。 | ||
![]() | さあ、ついてくるがいい! 私の美が妖術による偽りでないことを証明してやろう! | |
自信満々のアツマは、ミコトとスオウを引き連れ手近な女性を探しに行くのだった。 | ||
意気揚々と女性陣たちを口説こうとするアツマ。 | ||
そして、最初に出会った女性の反応は……。 | ||
![]() あなたのような遊び人は、浪費で身を滅ぼすと相場が決まっています。お引き取りくださいませ。 | ||
![]() | こ、この私に向かって遊び人、だと……。 | |
アツマは気を取り直して、次の女性に声をかけた。 | ||
![]() ひぃあーくっしょい! すみません、私の鼻、動物の毛に弱くて……ふぁ、ふぁあーきしょい! | ||
![]() | うあ! ばっちぃではないか! 今すぐ離れろ! | |
再び気を取り直し、アツマは次の女性へ……。 | ||
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![]() | ……さすがの私も、子供は守備範囲外だ。とっとと家へ帰るがいい。 | |
んなっ! 出会い頭に失礼なやつじゃ! | ![]() | |
結局、誰一人としてアツマになびくことなく、その散々な結果に、彼は頭を抱えてうなだれた。 | ||
![]() | くう~! こんなはずでは! 一体何が駄目だったというのだ! | |
やっぱり今までは妖術のおかげだったんですね。ご愁傷さまです、変態狐さん。 | ![]() | |
あきらめろよ、お前は負けたんだ。現実ってやつにな。 | ![]() | |
![]() | あ、そんなことはない! まだだ、まだ口説いていない女たちはいくらでも……。 | |
と、アツマが周囲を見遣った時、偶然にもミコトと視線が交差する。 | ||
![]() | いるではないか! 貴様が! | |
え、え? わ、私ですか!? | ![]() | |
![]() | おい、大人しく私のモノになれ! | |
直球で来たな、おい! | ![]() | |
![]() | もし私の寵愛を受け入れれば、私の美しく愛らしい尻尾を好きなだけもふもふする権利をやろう! | |
し、尻尾……もふもふ、いいかも……。 | ![]() | |
はっ! いいえ、騙されませんよ! お断りします! | ![]() | |
![]() | チッ、強情な女だ! ならば力づくでモフモフさせてくれる……はっ! | |
その時、アツマは背後にドス黒いまでの殺気を感じ、尻尾の毛という毛が逆立った。 | ||
![]() きぃーさぁーまぁー!! | ||
マトイちゃん! | ![]() | |
![]() | き、貴様はいつぞやの必中女子! なぜここに!? | |
私だけでは飽きたらず、私の友まで毒牙にかけようとは……許せん! このドグサレ変態狐が! | ![]() | |
![]() | ひい! ま、まずい……以前に必中女子にやられた古傷が疼いて、身体に力が入らん……! | |
痛みと恐怖で身がすくんだアツマに、鉄砲を手にしたマトイがにじり寄る! | ||
(戦闘(?)終了後) | ||
![]() | ギハ! ギョヘェ! | |
![]() | ま、待て! 話せばわかゴギャア! | |
![]() | お、お願い、話し聞いて……オバァ! | |
![]() | 女の敵め! 油揚げにしてトンビの餌にしてやる! どうだ、どうだ、どうだ!! | |
マ、マトイちゃん、完全に我を失ってる……。 | ![]() | |
……ひでぇ。 | ![]() | |
マトイの容赦なき制裁によって、アツマは無惨なボロ雑巾と化した……。 | ||
![]() | ふぅ……行くぞ、ミコト。この汚らわしい変態狐からは一刻も早く離れるべきだ。 | |
あ、うん……。 | ![]() | |
そしてマトイは、ミコトの手を引くと、そのままいずこかへと去って行った。 | ||
後に残されたボロ雑巾のアツマは、自身に起きた理不尽な不幸を嘆いた。 | ||
![]() | い、一度ならず二度までも……なぜ私がこんな目に……さすがにあんまりじゃないか……。 | |
満身創痍で立ち上がることもできず、地面を涙で濡らすアツマ。 | ||
そんな彼に、手を差し出す人物が一人……。 | ||
だいじょうぶかよ、お前。 | ![]() | |
![]() | ……なんだ、まだいたのか、貴様。 | |
ご挨拶だな。ま、これに懲りたら女遊びなんてやめるこったな。……ほら、手を出せ。 | ![]() | |
![]() | あ、ああ……。 | |
スオウに差し出された手を取り、アツマはよろよろと立ち上がった。 | ||
まったく、ボロボロじゃねえか。ほんと馬鹿なことをしたもんだな。 | ![]() | |
![]() | ふん、貴様に何がわかる。私にも狐神としての誇りがある。引き下がるわけにはいかんのだ。 | |
……ま、男をみせたいって気持ちはわからんでもないけどな。そういうところは嫌いじゃないぜ。 | ![]() | |
そう言って、悄然とするアツマの肩を叩くスオウ。 | ||
![]() | ……もしかして、私を慰めているのか? | |
そ、そんなじゃねーよ! ……ほら、歩けるか? 肩貸すぞ。 | ![]() | |
フラフラのアツマに肩を貸したスオウは、重傷の彼に付き添って帰路へとつく。 | ||
![]() | ……お節介な奴だ。私を助けて貴様に何の得がある? | |
戦に敗れた兵を無事に返すのも戦神の仕事だからな。損得なんざ関係ねぇよ。 | ![]() | |
![]() | ……貴様、実はいいヤツだったんだな。 | |
なっ! い、いきなり何言い出すんだよ! 殴られすぎて頭がイカれちまったか? | ![]() | |
![]() | ……ふっ、そうかもしれないな……。 | |
……ったく、高飛車な野郎かと思えば、いきなりしおらしくなりやがって、調子狂うぜ……。 | ![]() | |
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立て続けに女子にフられ、立てなくなるほどに殴打され、散々な目にあった狐神アツマ。 | ||
![]() | (……こういう付き合いも、たまには悪くない、か……) | |
しかし今、彼の顔はどことなく晴れやかだった──。 |
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